蜷川実花の写真は
色鮮やかだけれど、
あえて躍動感を出さないようにされている感じが強くって、
どちらかというと
被写体の良い部分があるということは知っているのだけれど、
それは綺麗さっぱり無視してしまって
自分の思うがままに撮ってやろう、的な感じがした。
人間の奥底にある執念とか欲望とかというのはあまりなくて
アクリルでポップな人形に近い感覚で展示されているような印象。
写真には " 撮影する人 " と" 撮影される被写体 " という
絶対的な関係があるからこそ、
そう思ってしまったのかもしれない。
色は鮮やかなのに
非現実的過ぎるからなのかもしれない。
展示会というのが
来場した人に対する氏の演出によって支配されているという感覚。
という感じで
ついついどこかに穿った感覚を抱いてしまった訳です。
目で愉しむという意味では
とても良かったのだけれど、
どうもしっくり行かないなぁ、と思っていたので
展示をすっ飛ばしてしまっても
" 勿体無い " という気持ちがなかったのかも。
その点、
階段を上ったところから展示が始まっていた
ブラック & ホワイト - 磯見輝夫・小作青史 - は
まったくの正反対で
感情を剥き出しにして
その瞬間の刹那な個人的感情を
ただひたすらに彫刻刀に込めて
木版画に叩き込んだ的な
ドロドロとしたところから現れた
一つの形と思える作品が並んでいた。
木版画だから基本的には真っ黒。
近くで見ると
荒々しい削り方なのに
目の部分など塗り潰されたようにしか見えないのに。
しかし、少し離れてみると
妙にリアルで気迫さえ感じられる訳です。
真っ黒だと思っていた目には
実は白い点が入っていて
瞳孔の向きもハッキリしているのが分かるし。
それらに共通していたのは
いずれの画も
ある種の不気味さをたゆたえているということ。
勿論テーマやタイトルが
既に気味悪かったりもするのだけれど、
実際の画を見ると
どうもメッセージが強いのです。
" 画が訴える" ってこういうことなのかな?と思ってしまうくらいに。
鮮やかな色を見ていただけに
展示のコントラストからか
色々と感じたけれど、
個人的には蜷川実花の写真展だけでなく、
木版画の展示も見て
" 来た甲斐あった " と思えたから
納得できたという訳です。